人工授精を受ける前に知っておきたい注意点とポイント

不妊治療の選択肢の一つである「人工授精」。身体への負担が比較的少なく、体外受精へのステップアップを検討する前の段階として、多くの方が選択する治療法です。

しかし、「なんとなく聞いたことはあるけど、具体的にどんなことに気をつければいいの？」と不安に思っている方もいるのではないでしょうか。そこで今回は、人工授精を検討している方や、これから治療を始める方に向けて、医療従事者の視点から、人工授精の注意点や大切なポイントを分かりやすくお伝えします。

1. 人工授精ってどんな治療？まずは基本を理解しよう

人工授精（IUI: Intra Uterine Insemination）は、タイミング法だけではなかなか妊娠に至らない場合に行われる、比較的初期の不妊治療です。

具体的には、採取した精液から運動能力の高い元気な精子を抽出し、細いカテーテルを使って直接子宮の奥に注入します。これにより、精子が自力で子宮頸管を通過する負担を減らし、卵子との出会いの確率を高めることを目的とします。

ただし、受精から着床までのプロセスは自然妊娠と同じです。注入された精子が自力で卵管を上り、排卵された卵子と出会って受精し、子宮内膜に着床して初めて妊娠が成立します。

2. 治療前に知っておくべき3つの注意点

人工授精は、比較的身体への負担が少ない治療ですが、いくつか注意しておくべき点があります。

(1) 感染症のリスクに注意

人工授精は、外部からカテーテルを挿入するため、ごくまれに子宮内に雑菌が入り、感染症を引き起こすリスクがあります。感染予防のため、多くのクリニックでは人工授精後に抗生物質を処方することがあります。発熱や激しい腹痛がある場合は、すぐに医療機関に連絡することが重要です。

(2) 排卵誘発剤の副作用と多胎妊娠のリスク

人工授精の妊娠率を上げるために、排卵誘発剤（飲み薬や注射）を使用する場合があります。これにより、複数の卵子が成熟し、双子や三つ子といった多胎妊娠になる可能性が高まります。多胎妊娠は、母体や赤ちゃんへのリスクを伴うため、医師とよく相談しながら治療を進めることが大切です。また、排卵誘発剤の副作用として、卵巣が腫れたり、お腹に水が溜まる「卵巣過剰刺激症候群（OHSS）」が起こることもあります。

(3) 人工授精だけで解決しない不妊の原因もある

人工授精は、精子がうまく子宮に到達できない「精子子宮頸管通過障害」や、軽度の男性不妊、原因不明不妊の場合に効果が期待できます。しかし、卵管の閉塞や精子の状態が著しく悪い場合など、人工授精では解決が難しいケースもあります。治療を進めてもなかなか結果が出ない場合は、医師と相談して体外受精へのステップアップを検討することが重要です。

3. 成功率を上げるために！実践したい4つのポイント

人工授精の成功率は、1回あたり5〜10%程度と言われており、決して高いわけではありません。少しでも成功率を上げるために、以下のポイントを意識してみましょう。

(1) 医師とのコミュニケーションを密に

自分の身体の状態や治療に対する不安、疑問点は、些細なことでも遠慮せずに医師や看護師に相談しましょう。信頼関係を築くことで、より自分に合った治療計画を立ててもらうことができます。また、日常生活での注意点や、何か変化があった場合にもすぐに相談できる関係を築いておくことが大切です。

(2) パートナーと二人三脚で取り組む

不妊治療は、夫婦二人で取り組むものです。人工授精では男性側の協力が不可欠です。精子の採取方法や提出時間など、クリニックの指示をパートナーと共有し、協力して進めましょう。また、精神的な負担も大きいため、お互いをねぎらい、支え合うことが何より重要です。

(3) 生活習慣を見直す

妊娠しやすい身体づくりは、不妊治療の基本です。

• バランスの取れた食事: 葉酸や鉄分など、妊娠に必要な栄養素を意識して摂取しましょう。

• 適度な運動: 血行を促進し、ストレス解消にもつながります。

• 十分な睡眠: 質の良い睡眠は、ホルモンバランスを整えるのに役立ちます。

• 禁煙・禁酒: 喫煙や過度な飲酒は、男女ともに生殖機能に悪影響を及ぼす可能性があります。

これらの生活習慣の改善は、人工授精の成功率を高めるだけでなく、その先の妊娠・出産にも良い影響を与えます。

(4) 治療の回数を重ねることも視野に入れる

人工授精で妊娠される方の多くは、3～5回以内で成功していると言われています。一度で結果が出なくても落ち込まず、医師と相談しながら治療を続けることが大切です。しかし、やみくもに回数を重ねるのではなく、一定の回数で効果が見られない場合は、次のステップ（体外受精など）に進むことも選択肢として考えておきましょう。

まとめ

人工授精は、不妊治療の有効な選択肢の一つです。医療従事者から見て、この治療を成功させるためには、治療内容を正しく理解すること、起こりうるリスクを把握すること、そしてパートナーと二人で協力して、心身ともに健康な状態で臨むことが非常に大切だと感じています。

この記事が、人工授精を考えている方、治療中の方の不安を少しでも和らげ、前向きな気持ちで治療に臨むためのヒントになれば幸いです。