人工授精を安全に受けるために:注意すべき感染症と万全の予防法
**人工授精(AIH/IUI)**は、タイミング法だけでは妊娠に至らないご夫婦にとって、身近な不妊治療の選択肢の一つです。精子を子宮内に注入するという性質上、「感染症のリスクはないの?」と心配になる方もいるかもしれません。
人工授精自体は安全性の高い治療法ですが、感染症のリスクを最小限に抑えるための事前の検査と治療後のケアが非常に重要になります。
ここでは、人工授精で特に注意すべき感染症と、ご夫婦でできる万全な予防策について詳しく解説します。
1. 人工授精で注意すべき主な「感染症リスク」
人工授精は、カテーテルを用いて精子を子宮内に注入する医療行為です。この過程で、ごくまれに子宮や卵管に感染が起こる可能性があります。
① 治療後に注意が必要な「細菌感染」
人工授精の際に、子宮内へ雑菌が入り込むリスクがわずかにあります。精子は洗浄・濃縮操作が行われますが、体内に異物を入れる操作であるため、感染のリスクはゼロではありません。
症状: まれに発熱や強い下腹部痛、進行すると腹膜炎につながるケースも報告されています。
予防法: 多くのクリニックでは、感染予防のために人工授精の当日〜数日間、抗生物質が処方されます。医師の指示通りに必ず服用することが重要です。
② 不妊治療前に必須の「性感染症(STD)のスクリーニング」
人工授精だけでなく、体外受精などの生殖補助医療を受ける前には、ご夫婦ともに特定の感染症の検査が必須とされています。これらの感染症は、妊娠や治療そのものに悪影響を与える可能性があるためです。
特に重要なのは以下の感染症です。
感染症 | 検査が必要な理由 |
クラミジア感染症 | 過去や現在の感染により卵管の閉塞や癒着を引き起こし、不妊の原因となります。治療をきっかけに再燃するリスクもゼロではありません。 |
梅毒 | 治療中に感染が判明した場合、母子感染のリスクを避けるために治療を優先する必要があるため。 |
B型肝炎(HBV) | 治療前に感染の有無を確認し、母子感染予防を含めた管理計画を立てるため。 |
C型肝炎(HCV) | B型肝炎と同様に、感染の有無を確認し、治療や妊娠後の管理に備えるため。 |
HIV(ヒト免疫不全ウイルス) | 医療スタッフや他の患者への院内感染予防、および妊娠への影響を確認するため。 |
2. 感染症リスクをゼロに近づける「予防と対策」
感染症を予防し、安全に治療を進めるためには、事前の準備と人工授精当日のご夫婦の行動が大切です。
予防策① 事前の「感染症スクリーニング検査」
前述の通り、不妊治療を開始する前には、ご夫婦ともに感染症検査を受けることが極めて重要です。多くのクリニックでは、1年以内の検査結果の提出が求められます。
検査項目: クラミジア、梅毒、B型肝炎、C型肝炎、HIVなどが一般的です。
重要性: 検査によって感染が判明した場合、人工授精を開始する前に適切な治療を行うことで、卵管などへの影響を最小限に抑えられます。
予防策② 精子採取時の「清潔操作」の徹底
人工授精に使用する精液の採取方法も、感染予防の重要なポイントです。
採取前の準備: 採取前には手をよく洗い、可能な限りシャワーなどで体を清潔にしておくことが推奨されます。
専用容器の使用: クリニックから渡される滅菌された専用容器を用い、容器の内部には極力触れないように注意して採取します。
採取方法: 性交渉時の腟外射精や、コンドーム内への射出は不純物が混入する原因となるため、推奨されません。
予防策③ 治療後の「抗生物質の服用と制限」
人工授精が終わった後も、感染症予防のための対策を怠らないようにしましょう。
抗生物質の服用: 医師から処方された抗生物質は、指示された期間、必ず最後まで飲み切ってください。
当日の制限: 注入後の細菌感染を防ぐため、当日は飲酒や湯船に浸かる入浴(シャワーは可)、激しい運動、性交渉などは控えるよう指導されます。
人工授精は、安全に配慮された環境で実施されますが、ご夫婦がこれらの感染症リスクを理解し、事前の検査と当日の注意事項を厳守することで、さらに安心して治療に臨むことができます。
治療の安全性を高めるためにも、検査結果や処方された薬について、疑問があればすぐに担当の医師や看護師に相談してくださいね。